12



メリーゴーランドでの笑いの後から、城野を前にして無意識に力んでいた力が抜けたようで、気がつけばまるで親子のような雰囲気を出しながら洸と城野と一緒になり遊園地を楽しんでしまっていた。
洸と手を繋いで城野と一緒に並んで歩くことも、嫌ではなくなっていた。
そのことに気づくことがないほど遊園地を満喫してしまっている私。
しばらく遊具を楽しんでいた私達だったが、
「ママ〜、お腹空いたよ〜。」
という洸の言葉に時計を見ると、とっくに昼食を食べる時間を過ぎていることに気づき、お弁当を食べることのできる場所に移動をすることにした。








移動した場所は、天気もいいので芝生の上にビニールシートでも敷いて食べたいところだが、急いで準備したことで用意することが出来なかったので諦めて、テーブルと椅子が置かれている昼食を摂れるような場所を見つけ、お弁当をひろげる。
洸の手をお手拭きできれいに拭いた後、食べるように促すよりも早く片手にオニギリ、反対の手には唐揚げを持ち食べだす。
「こら、きちんと箸使わないとダメでしょ。」
そうは言っても、おいしそうに食べる洸の姿を見てしまっては、強くは言えなくて、そのまま食べる様子を止めることができない。
お弁当というものは不思議なもので、家で食べるよりもおいしそうに食べてもらえる気がしてしまうせいもあるのかもしれないけれど。
そんな洸の様子からフッと横に座っている城野に視線を向けると、お弁当に手を伸ばすことをせずに、洸が食べている姿を見ていた。
「食べないの?」
「食べてもいいのか?
俺の分はないと思っていたんだが。」
城野の言葉に私は驚いてしまった。
まさか城野がそんなことを思ってこの場所に座っているとは思っていなかったから。
「多めに作っているからあなたに食べてもらった方が残らなくて困らないの。
私が作るお弁当だから口に合わないかもしれないけれど、嫌でなければ食べてもらえると嬉しいわ。」
「嫌なんていうことはない。
いつも店で食べているんだからな。」
そう言って城野はお弁当に手を伸ばすと、オニギリを手に取り食べだす。
その後は、卵焼きを口にしていたけれど、少しだけ口の動きを止めた後食事を再開させる。
城野の動きに、思わずムッとしてしまうのは仕方がないことだと思う。
勝手なことだとは思うが、どうせ食べてもらうのならおいしそうに食べてくれればいいのにと思ってしまう。
自分で進めておきながら本当に勝手な言い分だとは思うのだけれど。
だから、
「口に合わないのであれば無理に食べなくていいんですけど。」
そう言ってしまったのは仕方ないことだと思う。
これがアキラさんだったらここまでの態度はしないし、逆に落ち込んでしまうのだろうけれど。
そんなことを考えながら水筒のお茶をコップに注いだ後口にしていると、城野は私が思ってもいなかったことを言い出す。
「口に合わないわけじゃない。
甘くない卵焼きというのは今まで食べたことがなかったはずなのに、何故か懐かしい気がして思わず動きを止めてしまっただけだ。
あんたが作る料理は、どこか懐かしい気がしてくるから不思議だよ。
今まで口にすることがなかった料理なんかが特にそう思う。
本当に不思議だよ。」
「懐かしい?
不思議なことを言うのね。」
「自分で言いながらそう思ってるが、本当の話なんだから仕方がない。」
「お母さんの味に近いとか?」
「母は今まで自分で料理はしたことがないから、母が作る料理は食べたことがない。」
「えっ、そんなことあるの?」
「そんな意外なことだとは思わないが、家には専属の料理人がいるからな。」
「そうですか。」

この人、本当にお金持なのね。
家に料理人がいる人なんて私、初めて会ったわよ。
でも、お母さんの料理を食べたことがないっていうのは、何だか寂しい気がする。
そう思うのは、私が庶民だからかもしれないけれど。

「おいしかった〜、もう僕お腹一杯。
ママ、僕あれに乗りたい。」
城野の言葉に気を取られていた私に、食べ終わった洸が指さしながら話しかけてくる。
指さしている方向を見ると、小さなレールの上を動いている汽車の乗り物だった。
それは、子供だけが乗れるサイズで、今いる場所からそんなに離れてもいないので、乗ってきていいことを洸に言うと、すぐに立ち上がり小銭をもって走りだす。
「ご飯食べたばかりだからそんなに走っちゃ駄目よ。」
大きな声で話しかける私に、
「は〜い。」
元気な声で返事をしている洸だが、もう少しで乗り物の場所に着くというところだったので、たいして効果のない声かけになってしまったけれど。
順番を待ちながら汽車に乗ろうとしている洸は、自分の順番が来るのを今か今かと待ち構えている。
時折、こちらを見て手を振りながら。
手を振られて振り返す私。
もちろん城野が振り返すことはなかったけれど。











洸がそばを離れ、城野と2人きりになった今の状態で聞いたかったことを聞けると思った私は、食事を続けている城野に話しかける。
「どうして洸に遊園地に行くなんて約束をしたの?
それに、律儀に約束を守ってくれるなんて、目的は何?」
食事を続けていた城野だったけれど、私の言葉に動きを止め、私の方を見る。
そんな城野の視線は、何故だか私を探るような視線で思わず逸らしてしまいそうになったけれど、それでは何だか負けているような気がしてじっと城野を見つめた。
すると、城野はいつものように不遜な態度で接してくるのかと思っていたけれど、どこか自嘲ぎみな口調で話しだした。
「どうしてだろうな、よく分からない。」
「分からない?」
「そうだ。
坊主が遊園地に行きたいと言った言葉をいつもの俺なら聞き流しているはずなのに、気がつけば約束していた、連れて行ってやると。
そんな自分の言葉に驚いたが、1度口にしたことを実行しないというのは俺のポリシーに反するから連れてきたまでだ。
本当にお前達親子に関わってから調子が狂わされっぱなしだ。
早く土地を譲ってもらわないといけないのに。
いつもの俺だったら今頃はあの場所の工事が始まっている頃だ。
それが、いまだ何の進展もない上に毎日店に通ってる始末だからな。
俺の方こそ聞きたいくらいだ、こんなに俺を翻弄するお前達は何者なのかと。」
「何者かなんて言われても、私達は普通の親子だとしか言えないわ。」
「そうか?
変なオーラでも出しているのかと思っていたよ。」
「そんなもの出しませんから。」
「フッ、そうだな。
だが、お前達親子が気になるのはどういう訳なんだろうな。
こんな感情を持ったのは正直初めてなんで戸惑っているんだ。
あの土地がなければ俺は困ることになるのに。」
城野はどことなく切なそうな瞳で私を見ながらそう口にする。
その表情は、ごくたまに見せていたアキラさんの表情にとてもよく似ていて私の胸を狙い澄ましたかのように直撃してくる。
似ているはずがないと思っていたはずの城野なのに、今日はやけにアキラさんとダブらせてしまうことが多すぎて戸惑ってしまう。
そんなことではいけないと思いながらも、止めることが出来ない。
「そんな瞳で見ないで。
思い出しちゃうじゃない。」
城野の視線に耐えられなくなった私は、思わずそう言ってしまっていた。
「思い出す?何をだ?」
当然の結果、城野は私の口にした言葉の意味を探りだす。
1度口にしてしまった言葉は取り戻すことが出来なくて、私は自分の中にいるアキラさんのことを話しだした。





「だから初めて会った時にあんな顔をしていたんだな。
そんなにあんたの旦那に似ているのか?」
「そっくりよ、本当にアキラさんが戻ってきてくれたと思ってしまったくらいにね。」
「だが、いまだに連絡もない男のことをどうして待っていられるんだ?」
「どうしてかしらね。
私にも分からないわ。
でも、1つだけ言えることは、アキラさんのことを愛しているっていうことだけ。
何年も会っていないのに、私の中にはアキラさんが住んでいて、私を支えてくれている。
だから待つことが出来るのかもしれないわ。」
私は、どうして城野にそこまで話してしまっているのかと思わないでもないけれど、素直な気持ちを自然に話すことができていた。
「アキラという奴は幸せな奴だ。」
そう言って城野は、今まで見たことがない優しい瞳を私に向けていた。
その瞳に惹きつけられるように私は今まで以上に視線を逸らすことが出来ず、お互いを見つめ合ってしまう。
それはほんの短い時間だったけれど、私と城野の間に流れている時間が止まってしまっているような気さえしてしまっていたが、
「ママ〜!」
洸の私を呼ぶ声にハッとし、城野から視線を逸らすことが出来た。
逸らした視線の先には、荒い息を吐きながら走ってくる洸の姿。
でも、私の心臓は洸の息と同じくらい激しく動いていた。
そんな自分を誤魔化すように、洸のそばに近づいた私。

どうして城野とあんなに見つめ合ってしまったんだろう。
惹きつけられるような城野の視線から瞳を逸らすことが出来ないなんて。
静まれ私の心臓。
城野はアキラさんじゃないのよ!

言い聞かせるように自分に心の中で話しかける私のそばに城野が近づいてきたかと思うと、
「坊主、時間切れだ。
俺はこれから仕事だから帰るぞ。」
そう言って洸に話しかけた後私に片付けるよう促す。
洸は、まだ遊びたいと言って騒いでしまったけれど、帰る様子を見せている城野にこれ以上言っても仕方がないと観念したのか、拗ねた表情を見せながら手を取られ歩き出す。
私はといえば、洸の空いている手を握り、3人並んで歩く。
やはりその姿は親子のようだと思いながら。





帰りの車の中では、洸は眠ってしまい、私と城野は話すこともなく無言のまま家に帰り着いた。
眠ったままの洸を抱き上げた後、城野に、
「今日はありがとうございました。」
と、声をかけた。
「また来る。」
城野は私の言葉に短くそう返事をした後、車を走らせ私の視界から徐々に姿を消していった。



そして私は、城野の車が見えなくなるまで玄関の前で動くことが出来ずにいた。





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