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不本意ながら乗り込んだ城野の車は、社長と言うだけあって高級車で、座り心地はいいけれど、居心地は悪かった。
今まで高級車というものに縁がなかっただけに。
そうは言っても、居心地が悪いのはそれだけではないけれど。
知らない間に洸が城野と遊園地へ行くと約束をしていて、洸を人質にとられたような状態で乗り込んだ車のはずなのに、私の目の前では、運転中の城野に洸が嬉しそうに話しかけ、そんな洸に優しく接している城野を見ていることが、私には受け入れたくない状況で、居心地を悪くさせている。
私1人だけこの空間からのけものになっているような気がして。
こんな気持ちには洸の母親としてなる必要はないのかもしれない。
いや、母親だからこそだと言えるのかもしれないが。
「おじちゃん、約束守ってくれたんだね。
僕遊園地楽しみにしてたんだ。」
「そうか。
俺は1度口にしたことは必ず実行するからな。
遊園地に行くにはもう少しかかるから、隣でムスッとしている母親の隣で大人しくしてろよ。」
「ママがムスッとしてるの?」
洸は城野の言葉に私を振り返り、私の表情を確認してくる。
私は、洸にそんな表情を見せるわけにはいかなくて、ニッコリと笑う。
洸に気づかれない程度に口角が引きつっていたけれど。
「母親って言うのも大変なんだな。」
ククッと含み笑いをしながらミラー越しに私の表情を確認したであろう城野が話しかけてくる。
城野の言葉の含みから考えても、私の口角が引きつっていたのが分かったのだろう。

誰のせいだと思ってるんだか。
いつもの私は心からの笑顔で洸と接しているっていうのに。

口に出して城野にそう言いたい衝動に駆られながらも、洸がいる目の前では出来るはずもなく、
「大変なことないですから。」
そう言うしかできない私だった。
でも、それだけでは気が収まるわけもなく、
「城野さんこそ社長さんだと思ってましたけど、お暇みたいで遊園地に連れて行ってくださるんですね。
よっぽど社員の方が優秀だから夜も来られるんですか?」
嫌味を込めながら笑顔を崩さず城野に言った。

こんな言い方することなんて普段はないけれど、城野にだったらこれくらい言ってもいいわよね。

「暇なわけではなく、計画的に仕事をしているだけだ。
社員が優秀だというのは否定しないがな。
余裕なく仕事をするというのは、俺のスタイルではないし。
心配してもらったようだが、要らぬ心配だ。」
城野は私の嫌味をものともせず切り返してきた。
その口調は、私の嫌味なんてどうということもないといわれているような気さえしてくる。
こんなところでも城野の面の皮の厚さを感じずにはいられない。
しっかり私の言った言葉をこれ以上追及できない返答をするのだから。

悔しいっ。

そう心の中で叫ぶ私だったけれど、
「本当に楽しませてくれるな。
俺にそんな言葉を言うのはあんたくらいだ。
それに、思っていることが顔に出てくるところも笑わせてくれるよ。」
城野は声を出して笑った後、そう言った。
「別に笑わせるつもりはないんですけどね。」
これ以上城野に言っても、言い負かされてしまうと思った私は、身体ごと隣にいる洸の方を向き、城野を無視することにした。
それでも、城野がしばらくククッと笑っている声を聞くことになり、私をいらつかせながら車は遊園地へと近づいていた。












そうこうしている間に車は目的地へ到着した。
車を駐車場に停めた城野は、私達に降りるよう声をかけてくる。
ゆっくりとドアを開け降りた後、洸を車から降ろし荷物を手に持った私だったけれど、そんな私の手から自然な動作で城野が荷物を持ち、驚いてしまった。
「荷物くらい自分で持ちます。」
「重い荷物を女性に持たせる教育は受けていないんだ。
坊主、お待ちかねの遊園地だ。」
「遊園地〜。」
そう言って城野は洸の横に立ち、洸の歩調に合わせてスタスタと歩き出す。
洸は遊園地に到着したことで興奮しているようで、違和感を感じることなく城野と共に歩き出し、私の存在を忘れているような気さえしてくる。
「ちょっと待って。」
私は、そんな2人に置いていかれないように洸の隣に立ち歩調を合わせた。
それから入口に向かって歩いていたが、洸は城野に甘えているのか手をあげて握るように城野の手を求める。
城野は嫌がることはなく、洸の手を握っていることに、何とも言えない気持ちが私の胸の中で少しずつ溢れだす。
アキラさんとそっくりな顔の城野が洸の手を握り歩いている。
その姿は、アキラさんが本当に洸の手を握り、父親としてこの場にいるような錯覚を起こさせる。
アキラさんのような穏やかな雰囲気ではないのに、初めて城野と出会った日とは違い、威圧感がないせいかもしれないが。
嫌な奴だと思っている気持ちに変わりはないのに、徐々に洸と親しくなり、私に錯覚を起こさせる城野の存在が怖くなる。

こんな人とアキラさんを錯覚してしまうなんていけない。
だけど、洸が城野に向けている視線は、ますます私を不安にさせているのは事実だ。
写真でしか知らないアキラさんと同じ顔の城野が優しくすることで、洸は父親を求め出しているのかもしれない。
子供ながらに私のことを考えてなのか、あまりアキラさんのことを自分から聞いてくることが少なくなった洸。
父親が恋しくないわけがない。
まだ5歳という年齢なのだから。
そんな洸が、今の城野に父親を重ねているのは自然の流れなのかもしれない。
だけど、城野はアキラさんではない。
城野の目的は土地のはず。
遊園地に来る必要なんてあるの?
城野の考えが分からない。
こんなことをしても何の利益にもなりはしないのに。

私は、城野に対するいつも感じている疑問を強めながら歩いていると、遊園地の入口へ到着した。
入場料を払うために財布を取り出したかったけれど、その財布が入ったバッグは城野の手の中だ。
バッグを受け取るべく城野に声をかけようとすると、チケット売り場には近づくことなく入口へと向かいだした。
「チケットを買ってないのにどうして入口に向かうのよ。」
私は城野の腕を掴みそう言うと、
「チケットはここにあるから買う必要はない。」
そう言って胸ポケットからチケットを取り出す。
用意がいいことに驚いたけれど、城野に私達のチケットを用意してもらう理由がない。
「チケットは自分で買いますからバッグを返して。」
「すでにチケットがここにあるのに買う必要はないだろ。」
「あなたに用意してもらう理由もないわ。」
「人の好意は素直に受け取るものだ。
それに、坊主は待ちきれなくてうずうずしているようだから、そんな手間をかけるのは可哀想だとは思わないか?
そういうことで中に入るぞ。」
「そういうわけにはいかないって言ってるでしょっ。」
城野の言葉に、私は引き留めるために声をかけたけれど、そのくらいで城野が立ち止まるはずもなく、
「ママ、早く入ろうよ〜。」
という洸の言葉に、
「そうだよな坊主。」
城野は後押しされたかのように入口へ向かう。
そうなると、私が洸の楽しみを邪魔しているような状態になってしまっている。

もうっ。
とりあえずはこのまま中に入って後から城野にお金を払うしかないわね。

そう自分に言い聞かせ、城野が用意したチケットを使い遊園地の中へと入っていく私だった。





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