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あなたと逢ったあの日は私にとって大切な日。
このままあなたに逢えないままだとしても私の心の中を占めるあなたとの想い出。
私があなたを愛した真実、あなたが私を愛してくれた真実。
それだけで私は生きていける、この子と共に・・・・・。













「いらっしゃいませ。」
「ひなたちゃん、いつものね。」
「はい。」
広くはない店内、8人ほどが座れるカウンターしかない居酒屋。
店員も主人である私1人。
若いお客よりも仕事帰りのサラリーマンや近所のおじさん達が訪れることが多い。
それもそのはず、出てくる料理は居酒屋メニューというよりも、家庭料理といった物が主となっているからだろう。
それでも、私が作る料理をおいしいと言って食べてくれるお客さんの顔を見ると、大変だけど仕込みに時間をかけて準備して良かったと思える。
「ひなたちゃん、今日のお勧めは?」
常連である男性が私に声をかけてくる。
「そうですね、もう少ししたら茶碗蒸しができますよ。
あとは、煮付けです。」
男性の方を向き本日のお勧めを笑顔を見せながら説明すると、
「おいしそうだなぁ。
じゃそれ2つとも貰おうかな。」
男性は先に出していた熱燗を口にした後、注文をした。
「はい。」
私は返事をした後、鍋の中で蒸している茶碗蒸しと煮付けに視線を戻し、料理を再開した。





「ママ、ご飯食べたよ。」
「こら、お店に来ちゃ駄目だって言ってるでしょ。」
お客さんに注文された料理を出した後、食事をしているお客さんへ話の対応をしたり、お酒を注いだりしていると、住居を兼ねている店内の奥から声が聞こえてきたかと思うとそこには、用意をしていた夕食を食べ終えた洸(こう)がにこにこ顔で私がいるカウンター内に入ってきた。
「今日は全部食べたんだよママ!
ちゃんとピーマンも食べたよ。」
私に小さな胸を無理やり前に張り出しながら自信満々な様子を見せる。
その姿がほのぼのとして可愛らしく思わず顔がゆるんでしまう。
でも、ここはお店であって洸にはいつも来てはいけないと言っているのに来てしまったんだから叱らないといけない。
「洸、ちゃんと食べて偉かったわね。
でも、お店には来ちゃいけないって言ってるでしょ?
いい子だからお部屋に戻ってて。」
「えー、僕もここにいたいよぉ。」
戻るように言う私の言葉をまったく聞く様子をみせない洸は、私の洋服のすそを引っ張り主張してくる。
そんな姿もわが子がやっていると思えば可愛くもあり1人にして申し訳ない気持ちが湧いてきて、あまり強くも言うことができなくなる。
「いいじゃないひなたちゃん。
今日は常連ばっかりなんだから洸坊が居ても問題ないよ。
1人にさせとくよりもここにいる方が目がいくしいいじゃない。
なーいいよな。」
そう言って洸を抱きあげ膝の上に座らせるのは、常連である田口さんだ。
田口さんの言葉に、カウンターに座っている他の常連さん達は、
「いいよ。」
と、声をそろえたように言ってくれる。
そんなみんなの優しさがうれしくもあり申し訳なく思いながらも、田口さんの膝の上に座り楽しそうにかまってもらっている洸の姿を見るとこれ以上私は何もいうことができなくて、皆さんのお言葉に甘えることにした。

結局いつもこうなるのよね。
みんないい人達だから洸が来ても可愛がってくれる。
とてもありがたいことだわ。
洸は私のただ1人の家族だからこうやって可愛がってもらうのは親としてもうれしい、かな。

常連客の可愛がられている洸を微笑ましく見ながら、洸がいることをいいと言ってくれたみんなにお礼をしないといけないと思い、つまみをサービスとして出すために調理を始めた。





「洸坊、今何歳だったかな?」
「僕5歳だよ。」
「そっか5歳か。
こんな可愛い盛りなのに旦那さんも死んじゃって見られないなんて辛いよなぁ。
それに、ひなたちゃんも1人で店を切り盛りしながら子育てやってるんだからえらいよ本当。」
「そうだよなぁ、ひなたちゃんまだ若いのになぁ。
俺達常連客はひなたちゃんの味方だからな、何かあったらすぐに言うんだよ。」
「ありがとうございます。
でも、そんなに大変じゃないんですよ。
洸も可愛いし、皆さんいい人達ばかりだからお店も頑張れるし。
もうすでに皆さんに助けてもらってるんですから私。」
「うれしいこといってくれるねぇひなたちゃん。
よーしっ、売上に貢献するために飲むぞー!」
「よろしくお願いします。」
「僕お酒いれてあげる。」
「おっ、洸坊もうれしいこと言ってくれるねぇ。」
カウンターを埋めているお客さんは、酔いはそんなに回っていないはずなのに、テンションが高くなってきている。
でも、この人達の優しさは私の心を温かくしてくれる。
本当に私は恵まれた環境にいるのだと毎日思ってしまう。
きっと私が困った時には助けてくれるのだろうと思える人達。
まだまだ長い夜になりそうだったが、そんなことが気にならないくらい楽しい夜をお客さんと共に過ごし、洸が眠そうになるまでその時間は続いた。













今日はいつもより長く働いちゃったな。
でも、こんな気持ちがいい夜だったらいいか。
洸、疲れて眠っちゃったな。
お風呂に入れるのが大変だったもの。
眠たいときにお風呂に入れると嫌がるのよね。
よし、今からは母親タイムだわ。
幼稚園に持っていくバッグ新しいのを縫わなくちゃ。

洸の安らかに眠る寝顔を見て布団にはみ出ていた腕を入れた後、隣の部屋に移動してバッグを縫うべく準備を始める。
途中まで出来ているバッグを取り出し、残りを作り上げた後知らず知らずのうちに肩に力が入っていたようで、フーっと大きな溜め息をつく。
正面に視線が戻ると、当然ながら写真立てが目に入る。
座った時に見れるようにこの位置にわざと置いたものだ。
すっと立ち上がり写真立ての前に立った私は手に取り、中に入っている写真をじっと見つめそっと触れる。




逢いたくても逢えない私の大事な人、アキラさん。
あなたは今どこにいるの?
一生懸命あなたがいなくなってから捜したわ。
でも、あなたはどこにもいなくて。
ねぇ、あなたがいなくなったあの日から、もう6年経ったのよ?
今でも思い出すの、あなたと初めて逢った桜が舞う季節を。
それから、あなたと過ごした日々を・・・・・。





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