不機嫌なお見合い

BACK NOVEL 


〜淡い想いと過ぎゆく時間〜


私は黙って連絡を待つのがいいのかしら、この場合。


お見合いをして1週間、庭にある椅子へ腰掛けて紅茶を口にしながら物思いに耽るあまり、花に意識を向けられない状態で過ごしていた。

目の前のバラは当然ながらいつもと同じように咲き誇り、目を楽しませようとしてくれているけれど、今の私にはその効果をもたらしてはくれない。

流されるままに親が決めたお見合いに向かった私は何の期待もしていなかった。

やりたいことがあるわけでもなく、小さいころから親が言うことを聞いてその通りに従ってきた私には当然のことでもあったお見合い。

でも、そんな私の考えはすぐに遠くへと旅立つことになる。

一目惚れをしてしまったのだ、お見合い相手に。

私には縁のないことだと思っていた想いに気づくには時間がかかったけれど。

お見合いをして1週間、相手からの連絡はない。

バス停までの道のりを息を切らして彼の背中を追いかけていた私、そして初めての胸の痛みを感じたのは気のせいだったのかもしれないと、彼に会えない時間が私にそう思わせる。

それだけ待っていた、彼からの連絡を。

こういう時自分からどう行動したいいのかがまったく分からなかったから。

だって、そんなこと学校では教えてくれない。

もちろん両親も。

だから私には待つという選択しかなかった。

でも、そんな想いは昔のこと。

待っている時間は私に不安と焦りをもたらした。


このままでいいの?

もしかしたら彼は私のことをどうも思っていないから連絡してこないのかもしれない。だから彼は連絡をしてこないのだろうか?

でも、そんな考えで自分の気持ちを宙ぶらりんのままにするなんて、辛すぎる。

じゃ、どうしたらいい?

それは…。


思い立ったら吉日、そんな言葉が当てはまる行動を起こした。

でも、今までの人生の中でこんな行動力を見せたのは初めてだったけれど。














車を出して向かった場所は、彼の自宅。

実家へ伺いたいと連絡をしたところ、彼のお母様から一緒には住んでいないことを伝えられた。

なので、ここに来ても会えないだろうからということで、教えてもらった場所に来てしまった。

彼が住むマンションに。

運転手を帰らせ、マンションの前で1人彼が帰るのを待つ私。

私1人を置いていくわけにはないかないと運転手に言われたけれど、1人で待ちたいからと伝え何とか帰ってもらった。

でも、1時間2時間と、時間が過ぎると心の中で訴える声が生まれてくる。


男性を待ち伏せするなんてことは、はしたないこと。
今彼が現れて、私の姿を見て歓迎すると思うの?


思いつくままここにやってきて、でも、1人でいることで落ち着いてきたら自分の行動が恥ずかしくなってきてしまい、このまま彼の帰りを待つのは彼にとって迷惑でしかないという思いが私を支配する。

私の横を通り過ぎてマンションの中に入る人は少ないけれど、何もせず立ちつくしているだけの私を不審そうに見ながら通り過ぎる人もいる。

確かに怪しいだろう、日頃見ることのない女性がこの場所に何時間も立っているのだから。

この場所に来た目的、それは、お見合い相手が私のことをどう思っているか知りたかったから。

でも、その答えが私が望んでいるものでは無かったら?

ただ傷つくために来たことになる。

今までお父様から守られる人生だった私、傷つくことに慣れていない。

そんな私が彼から真実を語られた時に耐えられるだろうか。

きっと耐えられないだろう。

それならばこのまま帰ってしまった方がいい。

自分から傷つくことはないはずだから。

携帯電話を取り出し、運転手に迎えに来てもらうため登録されている自宅の番号を表示させ、通話ボタンを押そうと指をボタンの上に移動させた。

けれど、ボタンは押されることなく携帯電話が宙に浮く。

突然の出来事に驚きながら携帯電話を視線で追うと、携帯電話を持つ大きな手があり、腕の先にある大きな手の持主が視界に入ると、驚きは戸惑いへと変化し、動揺してしまう。

それもそのはず、会いたくて、会いたくなくて、会えないと思っていたお見合い相手が立っていたのだから。









「帰るつもりか?」

突然の問いかけに答えることはできなかった。

会うことなく帰ってしまおうと思っていたから。

だから、私を見つめる彼の瞳を見ることが出来なかった。

今彼がどう思っているのか知るのは怖くて、私が好きになった彼の瞳が私を軽蔑するものであれば立ち直るなんてことはとても出来そうにないから。

思いつくままの行動の結果が今出ていると思えば、どうしてこんな愚かなことをしてしまったのかと後悔をしてしまうけれど、それは後の祭りというもの。

視線を合わせることが出来ないまま立ちつくす私に彼はそれ以上声をかけてこない。

それが彼の心情を表しているのだと思うと身体が震える。

今からきっと、私は彼の口から聞かされるであろう侮蔑の言葉を聞かなければならないのだろう。

でも、そんなことは堪えられそうにない。

だから、このまま逃げ出してしまおう。

もう、彼と会うことはできないはずだから。

自分の愚かな行動に怒りが生まれるけれど、それよりも情けなさが勝る。

彼に掴まれた腕を払い走り去ってしまおうとしたけれど、その願いは叶えられることなく掴まれたまま。

そして、無言で歩きだす彼に腕を引かれ、マンションの中に連れて行かれてしまった。

着いた場所は彼の部屋。

中に入ると彼についていくには靴を脱ぐしかなく、スリッパに履き替えリビングへと案内される。

そして、促されるまま座ったソファーの横に彼は座り、俯く私を見ていることを視線で感じ取る。

「どうして私に連絡をしなかったんだ」

静かな場所に響く彼の声は怒りを含むものではなかったけれど、優しいわけでもない。

それでもここまで来たら無言で過ごせるはずがない。

小さく絞り出すような声で彼の問いに答えた。

「あなたに、会いたかったから…」

それが私の素直な想いだから。

一言口にすると、せき止めるものがなくなったのか、私は俯かせていた顔を上げ、彼の瞳を見つめながら話し続けた。

「私はあなたとお見合いができてうれしかったんです。
お父様に言われるままお見合いをして、結婚することは受け入れていたけれど、本当に好きになるか分からない人と結婚することができるのか不安があったのに、あなたの瞳に惹かれてから一目惚れをしました。
だから、好きな人と結婚できるのならこんなに嬉しいことはないと思いました。
初めての経験でした。胸をときめかせて好きな人からの連絡を待つというのは。こんなにも嬉しいものかということも初めて知りました。
でもそれと同時に、こんなに苦しいものだということを知りました。
お見合いの日から待っていたんです、連絡があるのを。でも、あなたからの連絡はなくて。
だから来てしまいました。あなたの迷惑になることも考えることが出来ずに…。
本当にごめんなさい。
…でも、嫌いにならないで、くだ…さい」

最後の言葉は、望まないのに流れだした涙のせいで、途切れ途切れとなってしまった。


どうしよう、こんなこと言ってしまうなんて恥ずかしい。

迷惑なんてかけたくないのに。


「嫌いになるはずがない」

彼を見つめたまま涙を流してしまった私を、彼は両腕を広げ抱きしめた。

初めて感じる彼の温もりは暖かくて、でも、急な行動に驚いてしまって身体を動かすことが出来ずに抱きしめられたまま。

「私も君と同じ気持ちだ。
だが、急な出張や片づけなければならない仕事が重なって連絡が出来なかった。
プロポーズを済ませているからというのは言い訳かもしれないが、連絡を怠ったのは私のミスだな。
だが、君を傷つけるつもりはなかったということは、信じてほしい」

真剣な彼の声。

そんな彼の言葉を信じないなんて出来るわけがなくて。

「信じます」

「本当に?」

「はい。好きな人の言葉ですもの。」

「ありがとう、と言った方がいいんだろうな。
私のような男の言うことを信じてくれたのだから」

私を包み込んでいた腕から力が抜け、向い合せになると真剣な表情の彼からの言葉。

私の耳をくすぐる落ち着いた低音の彼の声は心地いい。そして彼の言葉は私の中にも溶け込んでいき、胸が熱くなる。

ずっと会いたかった好きな人と会えてこうしてそばにいるということが、こんなにも嬉しく尊いものだと初めて知った。

気がつけば止まってしまっていた涙のあとを彼が指で優しく拭ってくれると、頬が変なスイッチが入ったとしか思えないほど熱くなってしまったけれど、喜びに震える胸が導くまま自分の手を彼の手の上から重ねる。

「こうやって一緒にいられることが、うれしいです」

頬の緩みを隠せないままそう言うと、彼は苦笑を見せた。

「そんな顔で可愛いことを言わないでくれ。理性を試されてる気になるよ」

「試す、ですか?」

彼の言葉の意味が分からず首を傾げてしまう。


思ったことを口に出しただけなのに、変なことを言ってしまったかしら。


「まっさらなんだな、私と違って。だが、そんな伊都子を汚したいと思ってしまうのは、男のサガだな」

やっぱり彼が言う言葉の意味が分からないままの私。

そんな私と彼の視線が重なる。

私が一目惚れをした惹きこまれる瞳。

「きれいな瞳、ですね」

正直な私の気持ちが口から出る。

「いけない子だ、悪い男に付け込まれるぞ」

そう言って彼は、私の唇に自分の唇を重ねた。

急な出来事に目を見開いてしまう。

少しだけ離れた唇で、

「こういう時は目を閉じるんだ」

彼の言葉が呪文のように、私は素直に目を閉じると、唇の感触が生々しく感じる。

暖かな唇は角度を変えて私の唇を甘噛みする。

そして、自然と開く口に彼の舌が入ってきたかと思うと、探しだした私の舌と絡みあい、口腔内を動き回り、それと同時に私の身体からは力が抜け、頭の中は真っ白になってしまう。

今まで感じたことないものが身体を支配してどうしたらいいのか分からないけれど、嫌じゃない。

それどころか、気持ちいいと思ってしまうのはいいことなのだろうか。

続けられるキスに、次第に息苦しくなってしまうと、ゆっくりと離される唇。

少し息が上がってしまいながら、力が抜けてしまった身体は彼の胸へと倒れこむ。

「キスって、気持ちいいものなんですね。初めて知りました」

「本当に…。私以外の悪い男に付け込まれないでくれよ?」

「はい?」

ボーっとした頭のせいで彼の言葉がはっきりとは聞き取れなかった私は聞き返したけれど、明らかにさっきよりは長い言葉が返ってきた。

その言葉を聞いてしまった私は、思わず頬を赤く染めてしまったけれど、幸せを感じさせてくれるものでもあった。言葉のすべてを理解することは出来なかったけれど。

「伊都子を好きすぎてどうしようもないって言ったんだよ。まっさらな伊都子には、これから色々教えていかないといけないな。悪い男に付け込まれる前に私の物にしなくてはいけないからね」






これから今までの時間が嘘のように、彼と過ごす時間が増えていくことになる。

そして、未知の世界を教えてもらいながら、幸せで愛しさが募る時間を迎えるのは、ほんの少しだけ先の話。



+おわり♪+


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