不機嫌なお見合い

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〜男性視点〜


「またですか。私にはまだ必要がないと言ってるでしょう。
わざわざ電話までしてこないでください。」

冷たく言い放ち受話器を叩きつけるように置いた。

辟易する母からの見合いの電話。

専務となり数年、社長である父の後継ぎとして実績を積む毎日に見合いなんてしている暇など私にはないと何度言っても母は聞く耳を持たない。

確かに私の年齢を考えると配偶者がいるというのは当たり前のことだと言える。

だが、現状を考えても女性に自分の時間を割く必要性を見いだせないというのが本音だ。

今までに女性に困ったことのない私には後腐れのない関係を持てる女性との付き合いが現状的には合っていた。

仕事以外で時間を束縛されるというのは堪らない。

いざとなれば政略結婚でもすればいいという気持ちもある。

女性に対して今まで仕事以上に大切に思える人物と出会ったことのない私には当然の考え方だった。

下手な女性を手中に収めるというのは得策ではなく、利益が得られる人物でないと結婚する意味がない。


まったく、面倒なものだ。



だが、後継者を残すという意味でも子供を作る必要もあるわけだから観念しなければいけない日が来るのだろう。

そうであったとしても、そんな日はまだ長く遠い時間を要したいものだ。





結婚に対して、いや、女性に対して失礼極まりない考えを持っていた私の考えを覆す日が来るとは、母のお小言を運んできた電話をため息混じりに見つめる私には知る由もなかった。















「やられた、な。」

ホテルでの商談を終えた私を待っていたのは満面の笑みを見せながら待つ母。

横にはお見合い相手としか思えないつれまで連れて。


わが母ながら行動力には驚かされる。


心の中でムカつきを通り越して呆れた感想を浮かべていたことは母には内緒だ。

ここまでされたら後をついていくしかなく、案内された場所はホテルから場所を移し、料亭の一室。

見合いの席としては形式に則っていると言えるだろう。

向かい合わせで座っている女性は年若く、私とは10歳まではないとしてもそのくらいは歳がはなれているようだ。

お互いの自己紹介が終わった後、女性と私の歳の差が9歳だと知るまでの感想となってしまったが。

目の前の女性は短大を卒業したばかりらしく、花嫁修業に励んでいるらしい。

確かに、働く必要はないほどのお嬢様だ。

振袖を着ているせいかアップされた髪。

幼さが残る顔ながら女性らしさと可愛らしさが同居している顔立ち。

少し下がった目じりのせいか穏やかな表情。

話の合間に見せる笑顔が私の心をざわめかせていることに驚きを感じえない。

ただの笑顔、されど笑顔。

私が女性に対して意識を向けるということは皆無に近いというのにどうしたことだ。

持て余す感情を昇華しきれないままお決まりのセリフを聞いた私達は料亭を後にした。










言葉をかけるわけでもない。

いや、かけれないと言った方が合っている。

女性の存在が私を落ち着かなくさせ、いつもの私だとあり得ないはずのエスコートをせず歩き続けているという行動を起こさせる。


どうしたというんだ?

今ある感情をどう説明すればいい?


自問自答を続けるうちに女性の荒くなった息使いが耳に入った。

それもそのはず、バス停一つ分歩いているのだから。

着物姿でこの距離はきつかっただろう。

ばつの悪さを感じながら立ち止まると、急に止まった私の背中に女性はぶつかりそうになるが、寸でで止まったようだ。

「すまない。歩調を合わせるべきだった。」

「え?あっ、気にしないでください。私が追い付けないのが悪いんですから。」

「女性の歩調に合わせなかった私が悪いんだ。君が謝る必要はない。」

「えっと、はい。」

再び笑顔を見せる女性に私の心臓は反応を示しだし、欲望まで起こさせる。

あり得ない自分の感情に背を向けるように再び歩きだしたのは、後ろめたさがそうさせる。

見合いに気乗りがしないのは女性も同じということは、料亭の席で気づいていた。

だが、今私は母に礼を言ってもいいとさえ思ってた。

仕事だけの生活をしていたら出会いことのなかった女性と出会う機会をくれたからだ。

だが、今まで感じたことのない感情を持て余している私はうまい言葉を口にすることが出来ない。


本気の相手には口説き文句の一つも言うことが出来ないとはおもってもなかった。


認めるしかない感情。

それは、一目惚れ。

私は彼女の笑顔に一目惚れをしてしまったのだ。

持て余す感情に言葉を発することなく彼女に背を向け歩き出す。

「すいません。休憩したいです。」

だが、そんな時間も女性が私を言葉と行動で引きとめたことで中断される。

先ほどよりも疲れた顔を見せる女性。

そんな表情さえも愛しさを感じるというのは相当な効果を私にもたらしている。

緩みそうになる表情を引き締めるのに気を取られたせいで、女性が言いだした言葉を聞き逃しそうになる。

「今さら何ですが、お見合いが不服なのであれば私はここで帰りたいと思います。
私のせいで不機嫌な思いをさせて申し訳ありませんでした。
今回はご縁がなかったのだと思うことにしますので、よろしければそちらからお断りを入れてください。では、失礼します。」

今までの私の態度を考えれば女性がそのような答えを導き出すのは当然だとも思えるが、このまま女性を逃すほど間抜けでもない。

去ることを知らせる一礼を見せる女性の腕を取り、立ち去るのを引き留める。

驚きを隠せない女性の表情。

もう女性のすべてが愛しいらしい。

私の視線を奪い続けているのだから。

言葉を交わし、誤解であることを伝えた私と女性は、しばらくの間見つめあう。

澄んだ瞳に吸い込まれそうになり、このまま抱きしめ唇さえも奪ってしまいたい衝動に駆られるが、さすがにこの場所でそのような行動を起こすのは得策ではないと冷静に分析した結果、近くにあるカフェへと移動する。

カフェは落ち着いた雰囲気で、出せれた飲み物とデザートがおいしいのも女性を和ませる役目を果たしてくれ、遅くまで会話を楽しむことが出来た。

それに、女性と過ごす時間がこんなに私を満たし、幸せにするということを知らせてくれた貴重な時間だった。





まさかこの歳で一目ぼれというものを経験するとは思ってもいなかったが、それと同時に湧き上がる欲望。

無垢な女性に対し抑えることも必要だと分かってはいるが、自覚してしまった欲望というものは自制心を失うものらしい。

今まで感じたことのない感情、知らなかった自分を知るのも悪くない。

これから知るであろう多くの感情は、深まる愛情へと繋がるのだから。


+おわり♪+


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