不機嫌なお見合い

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春が近づいてきていることを知らせる日差しが私の身体を暖かくしてくれる中、庭で紅茶を飲んでいる。

家の近くに咲いている桜は7分咲きくらいで、それでも十分に愛でることはできるけれど今の私は庭に咲き誇るバラに視線を奪われていた。

庭師さんが丹念に咲かせてくれるバラは私のお気に入りで風に乗って甘い匂いを運んでくれる。

短大を卒業して数日、私はお気に入りの庭で過ごすのが日課になっていた。

友人達は私と同じように就職先が決まっていない。

厳しい世の中のせいではなく、家柄のせいだ。

お嬢様学校育ちの私は周りと似たり寄ったりの境遇だから。

社長であるお父様から働く必要はないとお達しが出ているせい。

本音を言うと、一度でいいから私も仕事をしたいとお願いはしてみたけれど、そんな私の願いは聞き入れてはもらえず今に至る。

どうしても働きたいという強い意志があったわけではないので優雅な家事手伝いの身分で落ち着いてしまっている私はこの先の自分がどうなるのかは予想出来ているので、このまま身を流されるまま造られたレールの上を歩いてしまうはず。

すでにお見合い話がいくつかあって、今週の日曜日にはその内の1つのお見合いがある予定だ。


初めて会っただけで結婚を決めてしまうって可能なんだろうか?


いまだに恋という恋を経験したことのない私にとって素朴な疑問だった。

学校と習い事、そして家の往復を繰り返す私に出会いなんてあったはずもなく、物語にある激しい恋、一目惚れ、なんてものは経験したことがない。

せめてそのくらいの経験をしてからお見合いをして結婚をしたかったと思わないでもないけれど、この歳までそういうことがなかったのだからこの先そう簡単にあるとは思えない。
となると、ここはもう身を任せ流されてしまおうかと思っている。

私はどちらかというと、ぼーっとしている、自分の意見はしっかり言わないと、そんなことを友達から言われてしまうほどぼやっとしている。

だから、このままお父様に言われるまま、人生過ぎても不満はまったくなかった。

だって、お父様が言うことには間違いなんてないわけだし、その方が私も楽だし。

そんな自我がないような私だけど、それはそれで楽しい人生を送っている。











っ何?胸がドクドク音をたてて息苦しい。

こんなこと初めて。


そんな体験をするのは、お見合いでの出来事。





お見合いの日、お決まりのように料亭へと連れて行かれた私は新調した振袖に袖を通し、お父様とお母様に挟まれた状態で立派なテーブルを前にお見合い相手と向かいあっていた。

お見合い写真をしっかりと見ていなかった私は初めて自分のお見合い相手の顔を見ることになる。

そのお見合い相手も私と同じように両親と思われる人達に挟まれた状態で座っていたけれど、とてもお見合いをしにきているとは思えない不機嫌そうな顔で座っていた。

こういう場合、造り物だとしてももう少し笑顔があってもいいようなもの、でも、そんなことはお構いなしらしく、両親達が私達の紹介を始めてもその表情に変化は見られず、どちらかといえば不機嫌さが増しているようにさえ思える。

確かに、男性の方は今説明をされている内容から考えても私との歳の差は10歳以上、見た目的には少し彫が深い顔立ちでシルバーフレームの眼鏡の奥にある目は切れ長だけど意志が強そうな目、顔全体の造りも整っているから不機嫌そうにしていても男度は下がることはなかった。

座っている姿からははっきりと断言できないけれど身長は高めそう、すっきりとした身体のラインがスーツを際立たせている。

客観的に見ても女性が黙っていてもそばに寄ってきそうな気がするのに、どうしてお見合なんかする必要があるのか、そんな考えが私の頭の中に浮かぶ。

もちろん家柄的には私の家も相手の家に引けを取ることはないけれど、私の他にもお見合いの相手はいそうな気がする。

どうして私とお見合いをする気になったのか。

きっと親による勧めなのだろう。

相手に不機嫌な顔をさせてしまっているということは、このお見合いには乗り気ではないのだと思う。

そう思うと何だか申し訳ないような気になってしまう。

もちろん私だって乗り気でこの場所にいるわけではないけれど、目の前に不本意な表情を顔に張り付けている人を見ていると謝った方がいいのかなぁなんてことを思ってしまう。

そんなこんなで、頭の中で考えていた私ではあったけれど、お決まりなセリフなのか不機嫌な顔のままの男性と私はセリフに促されるように2人だけで移動をすることになってしまった。






沈黙の時間、でも、しっかりと私達の靴音は耳に入ってくるわけで。

そして、履き慣れていないものを履いている私はといえば、ゆっくりとした足取りのせいで男性についていくのに精いっぱいな状況になっていた。

歩いているだけのはずなのに、息が荒くなっているのは気のせい?なんてことはなく、確かに今の私は息が切れている。

早足な男性に必死についていっている状態なのだから。

すると男性が突然立ち止まり、もう少しで背中にぶつかりそうになってしまう。

寸でのところで何とか免れたことにホッとしていると、ジッと男性が私の顔を覗き込んでいた。


な、何?そんなに見られるとビックリしちゃうんですけど。

私の顔、そんなに変ですか!?


「すまない。歩調を合わせるべきだった。」

「え?あっ、気にしないでください。私が追い付けないのが悪いんですから。」

「女性の歩調に合わせなかった私が悪いんだ。君が謝る必要はない。」

「えっと、はい。」

思わずと言っていいかもしれない私の返事は、男性の言葉に対して適した返答ではなかったと言ってしまった後に気づいたけれど、口から一端出てしまったものは取り返すことが出来るはずもなく、とりあえずということで笑ってこの場を誤魔化してみる。

でも、その方法はまたもや今の状況に適してはいなかったらしく、私を見ていたはずの男性は再び背を向けて歩きだしてしまった。

失敗しちゃった、そんな考えが浮かんできたけれど、歩きだしてしまった男性の後をついていくしか今の私には選択肢がないわけで、私も再び男性の後ろを小走りになりながらついていく。

お互い声を出すこともなく黙々と歩き続けて気がつけばバス停1つ分は歩いてしまったようで、こんなに歩いたのはいつ振りなのかと漠然と思いながらバス停を横目に歩き続ける。


もしかしてこのまま歩き続けるの?

さすがにもう、きついですっ、私!!


運動不足な私の身体は歩き続けていることで悲鳴を上げていて、欲望に促されるまま男性の腕につかまる。

「すいません。休憩したいです。」

突然つかまってきた私に驚いたのか男性はつかんだと同時に足の動きを止めてくれた。

そのことにホッとしたのもつかの間、男性はやっぱり不機嫌そうな顔で私を見ていたことで私の心はさすがに傷ついたと訴えてくる。

好き好んできたわけじゃないお見合い、それなのにバス停1つ分も歩いている私。

しかも、相手からは不機嫌そうな顔をされるというのはぼーっとしていると言われる私でも傷ついてもしょうがないと思う。

そんなに私といることが嫌なのならこのままお別れするのが私達にとっていい方法のような気がする。

「今さら何ですが、お見合いが不服なのであれば私はここで帰りたいと思います。
私のせいで不機嫌な思いをさせて申し訳ありませんでした。
今回はご縁がなかったのだと思うことにしますので、よろしければそちらからお断りを入れてください。では、失礼します。」

嫌味を言うつもりは全くなくて、本心からの言葉であって、申し訳ない気持ちになりながら頭を下げながら言った私は顔を上げて男性の顔を見る。

やっぱり不機嫌な顔に変わりはなくて、そんなに私といるのが嫌なのに無理をさせて申し訳なかったなぁと思いつつ、もう一度頭を下げて立ち去ることにする。

でも、立ち去るという行動は出来なかった。

男性が私の腕をつかんだから。

「見合いが嫌なわけじゃない。だから、帰る必要もない。」

「でも、ずっと不機嫌な顔をしていますよ?それって、お見合いが嫌だからなんですよね?」

「不機嫌な顔?そんな顔をしているつもりはない。どちらかと言えば…。」

「どちらかと言えば?」

口ごもる男性に聞き返すと、じっと私を見つめる男性の瞳と視線が重なる。

その瞳から私は視線を逸らせない。

惹きこまれるような眼鏡の奥にある瞳は、探るような、私の中に何かを流し込むような視線。

そんな思いが私を支配していると、男性の表情が不機嫌な顔から微笑みへと変化した。

そんな表情の変化は何故か私にまで変化をもたらす。

顔が熱くなって、心臓が跳ね上がるという言葉がピッタリなくらいにバクバクと動きを早め、血流をおかしくさせたのか指先が痺れてきた。


っ何?胸がドクドク音をたてて息苦しい。

こんなこと初めて。


息苦しさまで感じだした時、男性が私の手を握ったまま歩き出した。

「疲れさせてしまったな。休憩しよう。」

近くに見えるカフェに向かい、その後私達は遅い時間になるまで一緒の時間を過ごすことになる。




後日、私は帰ろうとした時男性に一目惚れをしたことに気づく。

まさか自分がそんな体験をするなんて思ってもいなかった。

そして、男性はお見合いの席ですでに私に一目惚れをしていたということを知ったのは、お見合いの時に行ったカフェでプロポーズをされた時。

私と男性はお互いの両親が驚くくらいのスピード結婚をすることになるのは、数か月後の話。



+おわり♪+


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