向日葵

向日葵

「向日葵が好きなんです」





そう言って計算がないであろう笑顔を見せながら、100均で買ったと思われる小さなジョーロで葉を茂らせてきたプランターに咲く向日葵に水をかけているのは、部署は違うが顔見知りである、ギリギリ年齢差が10歳未満の女の子。

女の子と言っても、女性と呼ばれるには十分な年代ではあるけれど。

それでも、私から見れば、やっぱり女の子と言ってしまうのは、悲しいかな、歳を重ねてきた結果、と言えなくはない。



オバサンだわね、こんなこと考えるのは。



口から躊躇うこともなく吐き出される紫煙に囲まれながら、スクスクと成長をみせる向日葵と女の子を見つめながら何とも寂しいことを考えていた。















最近は喫煙者の肩身が狭くなっている環境の中私が勤める会社は、小さいスペースで目立たない場所にある喫煙場は外にある。

何もこんな空気が悪い所で育てなくてもと声をかけると、手頃な場所もないし家でも育てられないから。そう言って職場の花を管理している人から分けてもらったらしいプランターと土をいそいそと持ってきた女の子を私の昼休みの指定席である場所で観察する日々が続いていた。



向日葵、小学校を思い出すなぁ。

成長していく向日葵が、いつ花を咲かすのだろうと彼女のように毎日真面目に水やりなんてしてたっけ。

今じゃ、そんな面倒なことやれないわ。なんてことを考えちゃうようになっちゃったけど。



「お先です」

「はーい。お疲れ様」

水やりを終えた女の子は変わらぬ笑顔を見せながら高めで甘い声色を響かせながら立ち去る。

でも、その視線の先は私ではなくて、私の隣に立つ20cm差はある均整のとれた身体を壁にもたれかけている男だった。

分かっていながらも返事をしてしまったのは、隣の男が無反応だったせい。

「若くて可愛らしい女の子が声かけてくれたんだから愛想よくしてみたら?」

「愛想?必要ないだろ、そんなもの」

「彼女募集中なんでしょ?いや、花嫁募集中か。30歳もとっくに過ぎたんだから。」

「30歳を過ぎてるからといって、愛想よくする理由にはならないな」

ああ言えばこう言う状態に陥りそうな会話が続くのに気づいた私は、これ以上何を言ってもこの男には無駄だということで、残り少なくなったタバコをくわえた。

再び紫煙を吐き出しながら隣に立つ男のことを横眼で見ながら、こんなに愛想がなくてもモテるのよね。なんてことを考えていた。

部署は違えど同期の男は、何だかんだで面倒見がよく順調に出世もして顔立ちもすっきりとした癖が強すぎない整った顔のお陰で高物件と言われている。

付き合った女性がいないわけではないのも知っているけれど、ここ最近は女性の影をみせなくなっているのはモテすぎてどこか麻痺でもしたのかと勝手に考えている。

そうでなければ、あれほど絶え間なく女性をそばに置いていたのにおかしな話だからだ。



まー、私はといえば、この男よりもかなり枯れ果てた日々を送っていたけれど、それはそれということで。



「勿体ないことで」

ボソッとつぶやいた私に、水が溜められた灰皿にタバコを投げ入れる男が視線を向ける。

「タバコはこれ以上吸えないくらい短いぞ」

「そうじゃないわよ。さっきの女の子のことよ。

若くて可愛い子なんてありがたい存在かと思ったのよ」

「ありがたいねぇ。何を基準にそんなこと言ってるのか。

若くて可愛いというだけではありがたくも何ともないだろ」

「そう?あの子だったらいいお嫁さんになりそうだけどなぁ」

私も短くなったタバコを灰皿に落とし、男に顔を向ける。

すると、男はわざとらしく大きい溜息をつく。

「ご期待に沿えないで申し訳ないが、俺がありがたいと思うのは毎日律儀に部署の机を朝早くから拭いて、みんなが気付いていないような場所にある花の水を替えてる女を求めてるんだよ。

悲しいことに気づいてもらえてないようだけどな」

「へー、想い人なんていたのね。意外だわ」

驚いた私の言葉に溜息を返し私には聞こえない呟きを残し立ち去ってしまった。

「どこまで鈍感なんだか」







その言葉の意味を知るのは、鈍感な私に対し痺れを切らした男が行動を起こしてからの話。


2010.7.19