甘いワナ

あーちゃんって呼んだのは何故?
その呼び方で呼ぶ人今は誰もいないのに。
何で秋田君がその呼び方で私を呼ぶの?

私は急に呼ばれた言葉が、懐かしい自分の呼び名だったことに驚いて動きを止めてしまった。
そして振り返ると秋田君が私に近づいてきていた。
「こないでっ!」
「そんなことできないよ亜季さん。
誤解を解きたいんだ。」
「誤解じゃないじゃないっ、私を騙してたくせに。」
「それが誤解なんだよ、だから話を聞いて。
ねー、まだ思い出さない?」
「何で秋田君がその呼び方知ってるのよ。」
「だって、昔はそう呼んでたじゃない。」
「え?昔?」
「そうだよ、思い出して俺のこと。
いっ君と呼んでくれてた俺のことを。」
そう言う秋田君は気づいたら私のそばに来ていた。
そして私の頬にゆっくりと触れてくる。
真剣な目で私を見ながら。
私は秋田君の目に身体を縛られたように動けなかった。
そんな動けない状態の私は、秋田君の言ったいっ君という言葉が頭の中で引っかかり、昔の記憶を探っている。




「あーちゃんまってよー。」
「いっくんとおいところにいくんでしょっ。
そんないっくんとはもうあそばないっ!」
「だっておうちがかわるんだもんしかたないよ。
でも、ぜったいあーちゃんがいるここのもどってくるからっ。」
「ほんと?」
「うんっ、もどってきたらずっといっしょにいようね。」
「わかった。ぜったいだよ?」
「ぜったいっ!」




それは今まで忘れていた遠い幼い頃の記憶。
大好きだった近所に住んでいた男の子。
また帰ってくると約束してくれた男の子。
でも、お別れが辛くて、辛すぎて忘れてしまった記憶。
「いっ君?」
「思い出してくれたあーちゃん。」
秋田君は安心したような笑顔で私に話しかける。
「帰ってきたんだよ約束どおり。」
「本当にいっ君なんだ。」
「そう言ってるじゃない。
だから、俺の話をちゃんと聞いてほしいんだ。
誤解されたままじゃ亜季さんのそばにいられないし。
賭けなんかしてない、あれは友達が勝手に言ってることで、俺は賭けしてるつもりなんかなかったんだ。
どこでこの話を聞いたのか分かんないけど、嫌な気持ちにさせてゴメン。」
秋田君はそう言って私を自分の方に引き寄せようとしている。

私は信じてもいいのかな?
でも、信じたがってる。
本当に賭けはしてなかったの?

私は、頑なになっていた気持ちを少しだけ緩めて秋田君の腕に身をゆだねてしまう。
「おーい、そろそろ冷えてきたから家に入って話をしたらどうだ?」
いつの間にか存在を忘れてしまっていたシスコン兄が身体を震わせながら話しかけてきた。
その言葉に今まで秋田君を見つめていた私は、急に現実に引き戻されたような気持ちになって、秋田君の身体を押して離していた。
すると、
「松田さんこれ以上邪魔しないでくれるかな。」
秋田君はシスコン兄に低い声で話しかけながら睨んでいる。
「邪魔じゃない、親切心だ。」
「ものは言いようだ。」
「後藤、俺はもう帰るからきちんと話するんだぞ。じゃーな。」
そう言って私の頭を家でしたときみたいに髪をくしゃくしゃしながらなでながら言った。
そんなシスコン兄の行動にムッとした顔をして秋田君は、私の頭の上から手をどかせた。
「気安く触らないでもらいましょうか。」
「そんな嫉妬丸出しにしても、まだお前の疑惑はとれてないんだから疑惑をどうにかするのが先なんじゃないのか?」
「今からする所なんで。」
「じゃ早くするんだな。」
そう言ってシスコン兄は私達から離れ帰って行く。
「送ってくれてありがとう、翔太さん。」
私は、いつものようにシスコン兄ではなく、名前で呼んだ。
「やっと名前呼んだな。」
「お世話になったからね。」
「これからはそう呼んでくれ。」
手を振りながらそう言って翔太さんは帰っていった。




「何で松田さんのことは名前で呼ぶかな、俺のことは呼ばないくせに。」
ムッとした顔のまま秋田君はそう言った。
そんな秋田君に私は、
「だってまだきちんと誤解が解けたわけじゃないし。
ただいっ君だったというのが分かって賭けはしてなかったって言われただけだし。
これだけじゃまだ名前は呼べないわ。」
そう言って背を向けながら言うと、
「今からきちんと説明するよ。
だから、家に入れてくれる?」
秋田君は玄関の取っ手を握った私の手の上から自分の手を重ねてくる。
「じっくり聞かせてもらおうじゃないの。」
私は鍵を開けていつもの自分を取り戻しながら秋田君を家に招き入れた。












両親は共働きでいつも帰りが遅いからまだ帰ってきてなかった。
そんな状態で男の子と2人きりというのもどうかと思ったけど、秋田君からきちんと話を聞くのが先だと思い、今日は気にしないことにした。
秋田君を私の部屋に案内し、私はソファーの手すり近くに座った。
秋田君は近くによることはなく、同じソファーに座り話を始めた。
「さっきも言ったけど、賭けはしてないよ。
でも、どこで賭けの話を聞いたの?」
「教室で話してたじゃない。迎えにいったら聞こえてきた。
秋田君笑ってたし、賭けしてるんだと思ってショックだった。」
「あの時か。
そもそも賭けは俺が亜季さんに声をかけた後にあいつらが勝手に言い出したんだ。
だから、俺は賭けをしてるつもりはなかったよ。」
「だったら否定してくれたらいいのに。」
「あいつらも言ってるだけで本気じゃなかったから何も言わなかったんだよ。
それがこんな誤解を生むなんて思わなかったし。」
「そう、なんだ。」
「そう、誤解は解けた?
亜季さんは俺のこと好きになってくれたんだよね。
じゃこれで晴れて恋人同士だ、昔の約束を守るよ。」
そう言って秋田君は私の隣に移動してきた。
でも、私にはまだ納得できないことがあって、素直に頷くことができなかった。
「まだ違うし。
疑問に思ってることはまだあるんだから。」
私はそう言って秋田君のそばから離れ、ベッドの上に座った。
「何があるの?」
「何ですぐにいっ君だって言ってくれなかったの?」
「だって亜季さん気づいてなかったろ?
俺はすぐ分かったのに。だから気づくまで言いたくなかったの。」
「うっ、確かに気づかなかったけど。」
私は痛いところをつかれたと思い、言葉が詰まった。

だって忘れてたんだし、それに昔と変わってるから分かんなかったのっ!

「ちゃんと話してくれれば誤解もしなかったのに。
それに、何であんな方法だったの?」
「あんな?」
「そうよ、突然告白だなんて。」
「あれは・・・。」
いままで強気で話してた秋田君は急に言葉を止めてしまった。
そして、
「言わなきゃ駄目?」
と、急に後輩の雰囲気を出して聞いてくる。
「駄目。」

今まで強気だったくせに何なのよその変化はっ。
よっぽど言いたくないことあるってことよね。
その話を聞かないと信用できないわよ私はっ!

秋田君をじっと見て話をするように促すと、ため息をついた後秋田君は渋々という感じで話し出した。
「あの時亜季さん松田さんといただろ?」
「あー、いたわね。」
「しかも楽しそうに。」
「楽しそうに?そうだった?
いつもみたいに言い合いはしてたけど、楽しそうではなかったはずよ。」
「俺にはそう見えたんだよっ。
だから早く亜季さんを自分の物にしたかったの。
もうこれで全部話したよ。」
そう言って秋田君は顔を横にむける。

それって、やきもち焼いたってこと?
何だか可愛いかも。

私は秋田君が急に可愛く見えて、クスクス笑ってしまった。
そんな私に今まで横を向いていた秋田君が立ち上がり、私に近づいたかと思うと、押し倒してきた。
「ちっ、ちょっと!」
「俺は亜季さんが好きだよ、亜季さんは俺が好きだよね。
もう恋人同士と思っていいよね。」
そう言って私の唇に自分の唇を優しく重ねた。
それからそっと唇を離し、にっこりと笑っている。
「手が早いのね。」
「そんなことないよ、1ヶ月待ったんだし。
いや、子供の頃からだ。
これだけ我慢強い男はいないと思うよ。」
秋田君はそう言って私のスカートに手を入れてくる。
「ちょっ、とっ!」
私は秋田君の行動に焦って身体を押しのけようとした。
でも、秋田君の身体はビクともしなくて、腕の中でもがき続けている私を楽しそうに見ながら、手の動きをやめようとしない。

調子に乗るんじゃないっ!

私は秋田君の動きを止めるために、頭をポカポカ叩いた。
するとさすがに痛いのか、私のスカートから腕を引き抜いて、私から離れて頭をさすっている。
「痛いよ亜季さん。」
「調子に乗るからよ。」
「だって、恋人同士になったんだからお互いの愛を確かめないと。」
「今日はすっごく泣いたんだからね私。
だから、当分おあずけですっ。」
「え〜、そんな〜。」
「当然です。
私返事してないし。」
ぷいっと横を向いてそう言うと、
「え?今更好きじゃないとか言うの?」
と、驚いた顔の秋田君が焦ったように聞いてくる。
「さーどうでしょうね〜。」
「正直になりなよ。」
「私は正直よ、斎君。」
私は今まで呼ぶことがなかった彼の名前を呼んだ。
すると彼は顔をほころばせる。

でも、最初が肝心よね。

私はそう思い、
「好きよ。
でも、私を泣かせた罰で当分は大人しくしてね。」
と、にっこり笑って言った。
私の言葉に斎君はガックリ肩を落としてたけど、すぐに立ち直って、
「きっと亜季さんが我慢できなくなるよ。」
と、ニッと何かたくらんだような顔を見せる。




その顔が怖い気もするけど、これからはお試しの恋人ではなく、本当の恋人として斎君と過ごすことになる。
これからは、苦いワナじゃなくて、甘いワナで私を捕まえてね。

+おわり♪+




甘いワナ完結です。
途中更新が遅くなってしまいましたが、何とか完結できてホッとしています(笑)
今回の話は18禁ではありません。
書いていくうちにこういう終わり方がいいかなと思ったもので。
思うように書けなくて悩みながら書いた小説なので、20万HITのお礼小説になってないよっ、 と自分にツッコミ入れてたりします(焦) そんな管理人の拙いサイトですが、これからもよろしくお願いします。
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