甘いワナ

「泣いたらすっきりしたよ。」
私は美佐の胸で泣いた後、心の奥に溜めていた気持ちを吐き出して少し心が楽になった気がする。

こんなに泣いたのは久しぶりだ。
涙ってこんなに出るものだったんだな。

「それだけ泣けばすっきりもするだろ。」
シスコン兄はそう言って私の頭をこぶしを作ってコツンと叩いた。
「痛いなー。
傷心なんだから労んなさいよね。
まったく気が利かないんだからシスコン兄は。」
「すっかり元どおりだな、もう少し大人しいままでもよかったのに。」
「でも良かった、亜季ちゃん元気になったみたいで。」
「ご心配をおかけしました。」
私は2人にペコッと頭を下げながら言った。
「亜季ちゃんお腹空いてない?
ご飯食べていきなよ、今から用意するから。
食べたいもの何でも言ってね。」
「おい美佐、作るのは俺だろうが。」
「だって、翔兄が作るご飯おいしいからもっと亜季ちゃん元気になると思ったんだもん。
だから翔兄おいしいご飯作ってね。」
にっこり笑いながらシスコン兄へ美佐が言うと、
「しょうがないな。
俺が作るのは何でもおいしいからすぐ出来るやつを作ってやるよ。
だからリクエストはなしだ。」
と言いながら締りがない顔をしてシスコン兄は部屋を出て行った。

そんな締りがない顔をするからいつまでもシスコン兄って呼ばれるんだよ。
いい加減妹離れしないと幸せが来ないよあの人は。
幸せが来ないなんて私には言われたくないか。

シスコン兄に呆れながらも自分につっこみを入れていると、
「翔兄のご飯本当においしいから亜季ちゃんもっと元気になるよ。」
と、美佐は楽しそうに笑っている。
「元気になるかな。」
「なるよ。」
「でも、あんまり食欲ないよ。」
「ダメだよ、ご飯はちゃんと食べなくちゃ。
お腹がいっぱいになると幸せな気持ちになるよ。」
「なるかなぁ。」
「なるよ。
おいしいご飯をお腹いっぱい食べたらね。」
「そんなもんかなぁ。」
「そんなもんなのっ。
だから早くいつもの亜季ちゃんになってね。」
美佐はそう言って私を立たせると、シスコン兄が料理を用意している場所に手をひいて連れていった。




シスコン兄はあざやかに料理を作ると、私達が待つテーブルに次々と料理を運んできた。
すごい量の料理はとてもおいしくて、お腹が空いていないと思っていた私のお腹は満杯になるまで料理を受け入れ続けた。
「どんな人にでも特技はあるのね。」
おいしく料理を頂いた私は、しみじみとシスコン兄に向かって言った。
「ホント失礼な奴だな。
腹いっぱい食べたくせにそんなこというなんて。」
「お腹いっぱい食べたから言うんじゃないの。
こんな美味しい料理をシスコン兄が作るなんて以外のなにものでもないわよ。」
「口が減らない奴だな。」
そう言いながらもそれ以上は何も言ってこなかった。

きっと気を使ってくれているんだろう。
あんな大泣きした私に。
今日は甘えっぱなしだな2人に。
そう思うとため息が出てしまう。
自分が勝手に浮かれていただけなのに人に気を使わせて。

「亜季ちゃん泊まってく?」
美佐が私の様子を心配したのか食後のコーヒーを出しながら心配そうな顔をして聞いてきた。
「大丈夫、帰るよ。」
「いいんだよ泊まっても。」
「お泊りはまた今度ね。」
「そう?」
「うん。
2人に慰めてもらったからもう大丈夫だから。」
私はそう言って帰る準備をすることにした。
「じゃ今日は本当にありがとね。」
私は玄関まで見送りに来てくれた2人に言うと、
「もう遅いから送ってやるよ。」
そう言ってシスコン兄は靴を履き出した。
「いいよ、1人で帰れるから。」
「もう遅いからな。
いくら後藤でも襲われるかもしれないからな、物好きな奴に。」
「失礼しちゃうわね。
結構ですよ送ってもらわなくても。」
「ダメだよ亜季ちゃん、今物騒なんだから翔兄に送ってもらって。」
美佐は真面目な顔で私に言った。
美佐に言われてしまったら逆らうことはできなくて、大人しくシスコン兄に送ってもらうことになった。







家を出ると、冷えた空気が肌を刺激してくる。
そんな中、空には星が散りばめられたように輝いていた。
「きれいだな。」
私は自然に口から出した言葉に、
「そうだな。」
と、シスコン兄も星を見ながら返事をした。
そして私達は空を見上げたり、他愛もない話をしながら私の家に向かって歩き出した。




家に近づいてきて私は、
「今日はありがとうございました。」
と、素直な気持ちでお礼を言うと、
「後藤が素直なこと言うと落ち着かないから止めてくれ。」
と、驚いた顔をしながら失礼なことを言ってくる。
「人がお礼言ってるんだから素直に受け取りなさいよね。」
「そんな風にいつもみたいに言われる方が落ち着くぞ。」
「何よそれ、マゾなんじゃないの?」
「マゾじゃないっ!
後藤から素直に言われるのが慣れてないだけだ。
いつもは人のことをシスコン兄とか好き勝手に言ってるだろうが。」
「そうだった?
でもシスコン兄っていうのは当たってるじゃない。」
「そのシスコン兄っていうのはやめろ。
きちんと名前があるんだから。」
「えー、いまさら何て呼んだらいいのか分かんないもん。」
「いろいろあるだろうが。
先輩とか翔太さんとかいろいろ。」
「うーん、難しいな〜。」
「何が難しいんだ、シスコン兄よりよっぽど呼びやすいぞ。」
呼び方について押し問答な会話をしていると、私の家の前に人影が見えた。
その人影は近づくにつれてはっきりと誰なのかを私に分からせた。
今一番合いたくない人、秋田君、だった。

何で立ってるの?
そうか、賭けの確認しないといけないのか。
そうまでして私を笑い者にしたいんだ。

私は秋田君の姿に気づき、足を止め無意識にシスコン兄の腕の洋服を強く握りしめていた。
「どうした?」
急に動きを止めてしまった私を怪訝そうに見ながら聞いてくる。
私は身体が震えだしてうまく話すことができずに、秋田君を指さすことしかできなかった。
シスコン兄は、私の指をさす方向を見て、秋田君の存在に気づいたようだった。
「大丈夫か?」
心配した声で私に聞いてくるけど、大丈夫なんかじゃなかった。

秋田君に会うにはまだ早すぎる。
心の整理がついてない。
あんなに泣いて楽になったと思ってたのに、本人を前にしたらこんなにも苦しい。
だから、まだ無理。

そう思っても私の身体はその場から動くことができなくて、
「亜季さん。」
そんな状態にいる私に気づいてしまった秋田君が私に声をかけて近づいてくる。
「亜季さん教室まで行ったんですよ、でも帰った後だったから待ってたんです。今日で1ヶ月経つから返事が欲しくて。
でも、どうして松田さんといるんですか?
しかもそんなに近づいて。」
秋田君はムッとした顔をしながら言った。
「秋田、人の家の前で待たないといけないほどの用事か?」
「松田さんには関係ないですよ。
亜季さん、こっちに来てください。」
秋田君はそう言って私に手を伸ばした後腕を掴んできた。
私は秋田君の手が私に触れるのが嫌で払いのけた。
「賭けをしてた人が私に触らないでっ!」
そう言うと、秋田君は驚いた顔をした後バツが悪そうな顔になっている。
「賭けしてたんでしょ、私が1ヶ月で落ちるかどうか。
楽しかった?私を騙して。
面白かった?秋田君のことが好きになっていく私を見て。
良かったね、賭けは秋田君の勝ちよ。
私は秋田君を好きになったんだから。
これで満足でしょっ、もう私に近づかないでっ!」
私は大きな声で叫んだ後この場にいたくなくて、秋田君の顔が見たくなくて家に早く入ってしまいたくて走り出した。
でも、秋田君に腕を掴まれてできなかった。
「亜季さん話を聞いて。」
「話なんかない、もう私をこれ以上惨めな気持ちにさせないでっ。」

もう惨めにさせないで・・・。

「嫌がってるだろうが、手を離してやれ。」
気づくと私の腕を掴んでいた秋田君の腕を離してシスコン兄が私をかばうようにして私と秋田君の間に立っていた。
「あなたには関係ないですよ。邪魔しないで下さい。」
「関係なくはないぞ。
可愛い妹の友達が困ってるんだから助けるのは当然だろ。」
「きちんと話をしたいだけですよ、誤解も解きたいし。」
「誤解?」
「そうですよ。」
2人がにらみ合いながら話をしている間に、私はこの場を離れたくて、家に向かって再び走り出した。

誤解じゃないよ、本当のことじゃない。
もう嫌だっ、これ以上話すことなんかないはずなのに何で。

私はそう思いながら家の玄関にたどり着いた。
この場から離れることができると安心した私に秋田君が呼びかけてくる。

「あーちゃん待ってっ!」

亜季さんではなく、あーちゃんと呼ぶ秋田君の声に私は家に入ることができなかった。
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