いろんなところにキス7題


4.鼻先キス


「クーラーつけたまま寝るからよ。
どうせ布団もかけてなかったんでしょ?
今日はゆっくり寝てるのよ。
今日はどうしても遅くなるけど、具合悪くなったら携帯に電話するように。」
「はーい。」
布団に潜り込んだままの私に、微妙な母の愛を感じつつ仕事に行く後ろ姿を見送る私は、朝目覚めると身体の火照りに気づき、熱を計ると38.0℃の熱があった。
別にお母さんが言ったようにクーラーを入れっぱなしで寝たわけでもなく、布団をかけて寝なかったわけじゃない。
風邪気味でもなかった私が急に熱を出す理由は、自分なりに分析すると1つの答えが出てくる。
でも、それは情けなくなってしまう理由。
多分、多分なんだけど、知恵熱かなぁと思う。
知恵熱という言い方が合ってるのかは分からないけど、きっとこの言葉が当てはまる気がする。

うう、情けないよぉ。
初めてのデートなのにこんなことになるなんて。
曽我君呆れてるだろうなぁ、折角映画に行くって言ってたのに急にキャンセルしちゃったし。
どんなことがあっても行くつもりだったけど、身体に力が入んないから迷惑かけちゃうだろうし、そんなこと出来ないよね。
折角の初デートだったのにっ。
まぬけでおバカだよ、私。

曽我君には熱が出たから行けないとメールをしたけれど、メールをしながら熱で潤んでいた瞳から自分の情けなさに涙が出てしまい、さらに熱が上がってしまったようでベッドの上の住人になってしまっている。
付き合いだしてからデートに行くということがなかった私達。
特に何か理由があったわけではないけれど、私から誘うにも緊張しすぎて出来なくて、曽我君からも何も言われなかったからそうなっていったという感じだ。
そんな状態が続いていたところに観たい映画があると曽我君に言われ、これはチャンスなのかもと思い、私もという言葉を言うつもりがなかなか声を出すことができないでいると、そんな私の状態に気づいて、クスッと小さく笑った後、
「一緒に行こう。」
私が言いたいと思っていた言葉を代わりに言ってくれて、私は嬉しいやら緊張するやらではあったけれど、元気よく返事をしたのは数日前のこと。
昨日は今日着ていく洋服を選び、洋服に合う髪形を決めるのを何時間もかけて決めたというのに、こんなことになるなんて。
不甲斐なさに落ち込みつつも、お母さんが用意してくれた風邪薬を飲んだせいか瞼はゆっくりと閉じていき気がつけば夢の中に誘い込まれてしまっていた。








どのくらい眠っていたのかは分からないけれど、チャイムの音で目覚めた私はゆっくりとベッドから降りた。
薬のおかげなのか、眠ったのが良かったのか、だるかった身体も動かしやすくなっていて、玄関までの道のりもきつくはなかった。
そして、玄関まで着いたところでドア越しに訪問者に問いかけると、思ってもいなかった名前が言われ、慌てて扉をあけた。
そこには、今日会うはずだった曽我君が立っていて、驚きのあまり名前を呼んだ後口を閉じるのを忘れてしまっていると、
「そんなに驚かなくても。」
そう言って、クスクスと笑われてしまった。
曽我君の言葉に我に返ると、自分の明らかに寝起きだと分かる姿が恥ずかしくて顔が熱くなってしまう。
「良かった、熱が出たって連絡があったから心配したけど元気そうで。」
「薬が効いたみたいで、楽になったんだけど。
今日はごめんなさい、折角映画誘ってくれたのに行けなくて。」
「そんなこと気にしなくていいよ。
映画なんていつでも行けるし。
それより、はいこれお見舞い。」
「ありがとう。」
曽我君が差し出した手の中にはコンビニの袋。
中には、果物が入ったゼリーやプリン、ジュースなんかが入っていた。
それと一緒にミニブーケも手渡してくれた。
「何がいいかなぁと思ったんだけど、具合が悪い時にケーキはきついかと思って。
果物にしようかと思ったけど喉ごしがいいものの方が食べやすそうだったから。
ごめんね、気が利いたものじゃなくて。」
「そんなことないよ!
すごくうれしい、曽我君からもらえただけで元気をもらえたよ。」
「そうかな。」
「うん!」
そう、今もらったのは、曽我君からの初めてのプレゼント。
だから、私にとっては素敵な贈り物。
デートに行けなかったことで落ち込んでいたことが嘘のように浮き足出すくらい喜んでいる私は、ずっと玄関で話をしていたことになかなか気付けなかったけれど、そのことに気づき慌てて家に入ってと伝える。
玄関に入った曽我君はすぐに上がろうとせず、どうしたのだろうと思ってもう1度上がるよう声をかけた。
「今三輪1人?」
「うん。」
「そっか、じゃこれ以上上がるわけにはいかないよ。」
「どうして?」
曽我君が言う言葉の意味が分からなくて、首をかしげながら聞くと、
「ほら、そうやってすぐに可愛い仕草を見せる。
健全な高校生男子としては、こんなおいしいことはないけど、さすがに体調悪い三輪に対してはストッパーが必要だと思うよ?」
「ストッパー?何でそんなものいるの?
私の家に上がるだけなのに。」
「分からない?」
「うん。」
本当に曽我君が言っていることが分からなくて返事をすると、苦笑しながら、
「こういうことだよ。」
そう言いながら顔を近づけキスをした。
すぐに離れてしまったけれど、私の唇には曽我君の感触が残っていて、急なことに身体を固めてしまったけれど、ファーストキスをされたということはすぐに分かり、私の顔は熟れたように真っ赤になってしまった。
「分かった?」
意地悪さを含んでいるような笑顔だったけれど、私を見る瞳は優しくてただただ頭を前後に動かすことしかできない。
本当に分かったのかと聞かれれば、きちんと答えられないけれどまったく分からなかったわけでもない。
ただ、そのことが私の許容範囲を超えているのは確かで、落ち着いていたはずの熱が上がってしまったのか頭がクラクラしてきてしまう。
「そういうことで、ここで帰るよ。
リンゴみたいに真っ赤になってるからまた熱が上がったみたいだね。」
そう言って額をつけ熱を測り出す曽我君。
身体を固めたままの私に離れる時、鼻先に優しくキスをしてますます私を真っ赤にさせる。
「近いうちに熟れたリンゴをもらうつもりだけど、今日は大人しくしておくよ。
三輪はゆっくり休むんだよ。」
曽我君は笑顔のまま私に背を向けドアを開ける。
「曽我君っ、また明日!」
背中越しに見つめる曽我君に、やっと動きだした身体が脳に声を出すように指令を出し声を出した後、手を振る。
そんな私を曽我君は振り返ってくれて、手を振り返した後帰って行った。
そして、曽我君が帰った後の私はというと、その場に力なく座り込んでしまった。
何が起きたのか理解をしながらも、嬉しさと緊張のために力が入らなかったからだ。
変わらず顔を熱くさせ、真っ赤な状態。
でも、顔だけじゃなくて胸もドキドキのせいで熱を持っているよう錯覚させるけれど、自然と笑顔というよりも顔をニヤけさせてしまっている。
曽我君が言った言葉の意味は何となく理解しているけれど、それよりも私は曽我君とキスをしたことが嬉しくて、キャーキャー声を出してしまう。

大好きな人とのファーストキス。
突然のことだったけれど、幸せな時間。
触れるだけのキスに愛しさが生まれたことに気づく。
まだまだ子供で曽我君の気持ちがすべて分かっているわけじゃないけれど、好きという気持ちはどんどん私の中に降り積もっている。
その好きが溢れる時きっと、曽我君の気持ちに近付けるような気がする。
今は素直な自分の想いを大切にしていきたいと思えることが幸せなことなんだと曽我君が教えてくれた気がしていた。





その後、知恵熱が再びやってきてしまうけれど、何だかんだで、幸せな日曜日を迎えたということにいつまでも顔をニヤつかせてながら、曽我君が持ってきてくれたお見舞いをベッドの中でいつまでも眺めていた。


+おわり♪+


夜勤明けのハイな頭で一気に書き上げた短編、「優しく甘くささやいて」ですが、気がつけば続編を書く機会を皆様にもらえたと思っております。
最初の勢いはなくなってきてるかもしれませんが、機会があれば続きを書きたい話の1つになっていたりします(笑)
「優しく甘くささやいて」に投票をしてくださってありがとうございました。





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