いろんなところにキス7題


3.手の平にキス


私は人からドジだと言われていて、自分でも自覚はしている。
あまりのドジぶりに自己嫌悪になることもあるけれど、このドジのお陰で今私は幸せ者になれたと言っていい。
こんなにもドジな自分に感謝したことなんて生まれてこの方1度もなかったけれど、高校生になって初めて感謝なんてものをした。
だって、ドジをしたお陰で先輩、ううん、和明さんと恋人同士になれたんだから感謝感謝の気持ちで一杯。
本当は和明さんのお兄さんでもある生徒会長に一目惚れをして告白をしようと家の前で手紙を握りしめ待っていたところ、普通はあり得ないだろうと突っ込みがきそうだけれど、和明さんに手紙を渡してしまったのだった。
最初の頃は無口で怖い印象でしかなかったのに、気がつけばお兄さんへの気持ちはあこがれだったのかと納得してしまうほど好きになってしまっていた私。
それから、お互いの気持ちを確認し、現在に至る。
今日だって毎週末にほとんどと言っていいほど行われているデートの日。
らぶらぶだって言っていいのかな?なんて。
今では和明さんと一緒にいる時間がとても居心地が良すぎて、1人でいる時間が寂しいくらい。
和明さんも私と同じで、一緒にいない時は少しでもいいから寂しく思ってくれているとうれしいんだけれど、そんなことを口にしてくれるタイプでもないので確認したことはない。
でも、いつかは確認したいな、なんて計画中だったりする。
友達には色ボケだ、なんて言われる時もあるけれど、そんなこと気にしない。
だって、幸せなんだもんっ。
というわけで、待ち合わせの時間よりまだ早い時間から行動を開始した私の目的は、いつも冷静な和明さんの反応を見る計画を実行しようとするためのものだ。
どうやって何の反応を見るのかというと、外で待ち合わせだけれど家に迎えに行ったらどんな反応なのかなぁなんてイタズラ心が生まれてしまったのだった。
予想としては、いつもと変わらず冷静な対応をされることが有力だけど、もしかしたらいつもは見れない新鮮な反応が見れるかもと期待をしてしまう。
彼氏の色んなところを知りたいのは乙女の純情というもの。
では、計画実行!










やってきました和明さんの家。
この家に来るのは2回目だ。
1回目はお兄さんに告白しようとしたとき。
よしっ、行くぞ!
何故か勢いをつけながらインターホンに手を伸ばしていると、
「あれ?もしかして和明の彼女だよね?」
後ろから話しかけられたことに気づき、動きを止め振り返る。
するとそこには、和明さんのお兄さんがコンビニの袋を片手に立ち、笑いかけながら立っていた。
「こんにちはっ。」
まさか玄関で家族の人に会うとは思ってもいなかったから驚きのせいで声が上ずってしまう。
「和明と出かけるのに迎えに来てくれたの?」
「はい。」
「弟の彼女が同じ学校にいるっていうのは知ってたんだけど、話しかけるタイミングがなくて挨拶が遅れちゃったね。
あいつにも言ってたんだけどはぐらかされてたんだ。
だから、今日会えてうれしいよ。」
「そんな。
私の方こそ挨拶遅れてしまって申し訳ないです。」
「気にしてほしくて言ったわけじゃないんだよ、だから気にしないで。
和明と仲良くしてやってね。」
「はいっ、それはもちろん!」
「はは、元気がいいんだね。」
勢いよく返事をしてしまったことを元気がいいと言われ、照れ臭くなってしまった私。
「ごめんね引きとめて。
どうぞ、上がって。」
そう言われ、先に玄関に入ろうとするお兄さんに促されながら歩き出すと、石段の段差でつまずいてしまいバランスを崩す。
またドジってしまったと思いながら、身体が倒れこむまま動きを止められないでいると、お兄さんが身体を支えてくれてこけることは免れた。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、弟の彼女にけがをさせるわけにはいかないからね。」
ニッコリ笑いながら言われる表情は、私が好きだと思っていた表情だ。
今は好きじゃないのかと言われたら好きというよりは好感が持てると言った方がいいかもしれない。
改めて、お兄さんにはあこがれだったんだと思える。
和明さんのお陰で好きということの意味を知ることが出来、あこがれとの違いを気づかせてくれた。
胸を締め付けられるほど切なくて、そばにいたくて、でも、そんな気持ちを口にするには勇気が出なくて、いろんな気持ちを和明さんは教えてくれた。

和明さんは、失いたくない私の大切な人。

「那智、何でここにいるんだ?」
お兄さんに身体を支えられたまま声が聞こえた方に顔を向けると、和明さんが立っていた。
でも、表情がいつもより不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか?
「和明さんを驚かそうと思ってきちゃったんだけど、またドジっちゃってお兄さんに面倒かけちゃった。」
「別に面倒なんかじゃないよ。」
「いえ、本当にありがとうございました。
お陰でコケなかったんで助かりました。」
頭を下げながら改めてお兄さんにお礼を言っていると、急に腕を引かれた。
何事かと思うと、考える間もなく和明さんが私のことを家に引きいれ、焦りながら靴を脱ぐはめになり、初めて訪ねた彼氏の家なのに靴をきちんと揃えることも出来ず家に上がってしまっていた。
「靴っ、脱ぎっぱなしになっちゃってるよっ。」
焦って和明さんに話しかけたけれど、何の反応も示してはくれず、お兄さんがクスッと笑いながらごゆっくりと言っている声が聞こえる頃には階段を上っていた。
部屋の中に入り、和明さんは掴んでいた私の腕を離す。
それから何か話しかけてくれるのかと思っていたらそんなことはなく、無言でベッドに腰かけられてしまい、沈黙が私達の間に流れる。

もしかして、勝手に家に来ちゃったことすごく怒ってるのかな?
まさか、こんなに怒られるなんて思ってなかった。
和明さんに嫌われちゃったのかな?
やだっ、どうしよう!
こんな計画立てなきゃ良かったよぉ。

自分が張り切って立てた計画を後悔しても後の祭り。
結果として、和明さんが怒っているのは明確なのだから。
ここは、素直に謝って許してもらうしかない。
このまま嫌われるなんて絶対嫌だから。
「ごめんなさい、勝手に家に来ちゃったりして。
もうこんなことしないから許してください。」
ベッドに座ったままの和明さんに、自分の腰が曲げられる限界まで曲げながら深々と頭を下げることで反省していることを伝えたくて、謝りの言葉を口にする。
それでも、私達の間に流れる沈黙は変わりがなく、やっぱり勝手なことをした私を許してはくれないのかなと思うと、鼻の奥がツンとしてきて涙が溢れだそうとしてくる。
でも、ここで泣いてしまうのは嫌だった。
泣くことで許してもらおうと思っていると和明さんに思われたくなかったから。
「別に怒ってない。」
「え?」
「怒ってなんかない。」
沈黙を破りながら話す和明さんの声は、言葉のとおり怒ってはいなかったけど、淡々とした言い方で不機嫌さをにじませている。
そのことが私を気にかけさせる。
だって、怒られるよりもこんな風に言われるのは、私に関心がないのだと言われているような気がしてしまうから。
どちらにしても、嫌われているのではないかという思いは変わらず、きちんと顔を見ながらもう1度謝ろうと思い顔をあげる。
けれど、私の気持ちとは裏腹に顔を上げたことでまともに見ることが出来た和明さんの顔は、片手で口元を押さえているところは見えないけれど、他のところがどことなく赤く染まっているように見えた。
なぜ和明さんが赤くなっているのか、もしかしたら怒り過ぎて赤くなってしまったのかと思うと、目頭を熱くしていたものが耐えられず頬を伝う。
当然鼻も緩くなるわけだからすすらないといけなくて、泣きたくなかったのに結果的には泣いてしまう。
「泣くなよ。」
「ごめんね、泣きたくなんかなかったのに泣いちゃって、嫌だよね。
それに、和明さんが嫌がることを私・・・・。」
「違うんだ、那智は何も悪いことなんてしてない。」
「でも、怒らせちゃったし。」
「本当に怒ってなんかないんだ。
ただ・・・。」
「ただ?」
言葉を詰まらせてしまった和明さんの言葉の続きを聞きたくて問いかけると、閉じてしまっていた口を開きだし、私が考えもしなかったことを話しだした。
「兄貴に抱きとめられていた那智は嬉しそうで、やっぱり兄貴の方が好きなのかと思うとどうしようもなく悔しかったんだ。」
「そんな、嬉しそうになんかしてないよ。」
「俺にはそういう風に見えたんだ。
兄貴に会わせないよう家にも呼ぶことができないほど、那智が兄貴に会うことで俺と付き合っていることを後悔されるのを避けてた。」
本当に考えもしなかった和明さんの心の声。
まさかそんなことを考えているなんて思いもよらなかった。
私は和明さんのことが本当に好きで、お兄さんのことはあこがれでしかないことは分かってもらえていると思っていたから。
でも、そうじゃなかった。
まだ誤解をさせてしまっていたことに申し訳ないというか悔しい気持ちになり、和明さんの隣に腰掛け、空いている方の手を取り、自分の頬に触れさせた。
「この手は私が大好きな人の手、いつも私の手を包んでくれる大好きな手。
この手があったから私はあこがれと好きの違いに気づくことが出来たの。
だから、これからもそばにいたいのは和明さんだけだよ。」
自分の手を重ねたまま、和明さんの手に頬ずりをする。
すると自然と手の平にキスをして、私の気持ちが手の平からも伝わればいいのにと思う。
「那智・・・・。
ありがとう。」
今日初めて微笑んでくれた和明さんの表情に、私の気持ちが伝わったのだということを知る。
それが嬉しくて私も微笑み、お互い笑顔で見つめ合う。
「初めてやきもちなんてものを感じたよ。」
「そうなの?
私はいつもだよ。
だって、和明さん人気者だし。」
「別に人気者なんかじゃないだろ。」
「人気者だもん。
でも、いつもやきもちやくのは私だけだと思ってたから、やきもちやいてくれてたんだって分かって何だかちょっとうれしかった、かな。」
「そんなもんか?」
「そんなもんだよ。」
和明さんの手は私の頬から移動し、髪に優しく触れてくれて気持ちがいい。
そんな中での会話。
日頃することのなかった会話だけど、和明さんにとって初めてだというやきもちに嬉しい気持ちが私の身体を動かす。
和明さんの顔に自分の顔を近づけ、私にとって初めてのキス。
ほんのちょっとだけ触れるものだったけれど、温かさと共に愛しさが込み上げてくる。
自分からなんて大胆なことをしてしまったと思ったけれど、和明さんの初めてのお返しに私の初めてもあげたかったから。
突然の私の行動に、和明さんは驚いていたけれどすぐに笑顔を見せ、
「やられた。
本当に那智が可愛くて、愛しくて仕方ない。」
そう言って私を抱きしめる。
和明さんの腕の中、逞しい胸に包まれながらこれからも私の初めてをあげるのは和明さんでありますようになんてことを思いながら和明さんの広い背中に自分の腕をからめた。


+おわり♪+




まさか投票をいただけるとは思っていなかったこの話。
続きを書くのはいつになることやらと思っていただけに、今回楽しく書けました。
まだまだ付き合いだしたばかりの2人ということで、お互いの気持ちを再確認した話にしてみましたがいかがでしょうか?
これからも色々とあるかと思いますが、基本的にはらぶらぶな2人になるのかと思われます(笑)
「あなたが好き」に投票してくださってありがとうございました。





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